例年11月上旬頃に実施される行政書士試験。
行政書士になるにはいくつかのルートがありますが、多くの行政書士が、この試験への挑戦を経て資格を取得しています。
受験勉強をしていると、まずは「合格すること」が大きな目標になります。
一方で、勉強を続けながら、「合格した後、実際にどのような仕事ができるのだろう」「未経験から行政書士として仕事をしていけるのだろう」と、資格取得後の姿を思い描くこともあるのではないでしょうか。
今回は、東京都行政書士会豊島支部の所属行政書士について、その歩みを紹介した記事が公開されていますので、受験生や登録前の合格者の皆様にご紹介します。
行政書士の仕事の特徴とは?
行政書士の仕事には、一つ大きな特徴があります。
それは「職域が極めて広範にわたる」という点です。
試験勉強をされている方なら、行政書士法の業務範囲について、その広さを感じる機会もあると思います。
(業務)
第一条の三 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(…※省略※…)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
(参考/e-gov)行政書士法
私たち行政書士の専門分野というのは、実は「引き算」です。
官公署提出書類、権利義務関係書類、事実証明関係書類、これら3種の書類作成について、他士業等の独占業務を除いたものが私たちの専門分野です。
行政控除説(国の仕事から立法と司法を除いたものが行政であるという考え方)の採用ともいえるこの条文、これこそが私たちの行政書士業務が広範となる理由です。
行政書士の仕事は、会社や事業に関する許認可、外国人の在留手続、相続・遺言、自動車や運輸に関する手続など、枚挙にいとまがないほど幅広い分野に及びます。
法律を専門に学んできた方は、もちろんその知識を直接生かすことができるでしょう。
許認可分野について考えてみても、検討しなければならないのはその業法だけではなく、各種の規制法令など多岐にわたります。
しかし、行政書士になる前に建設、運送、飲食、福祉、金融、IT、営業、接客、外国語など、法律とは直接関係のない仕事をしてきた方は、それぞれの業界で培った知識や経験についても行政書士業務につなげることができます。
その業界の知識があることは、クライアントにとってどれだけ大きな安心材料となるでしょうか。
過去のキャリアは、行政書士になるための「遠回り」ではありません。
むしろ、資格取得後に自分ならではの専門分野をつくっていくための大切な財産になります。
それでは、支部会員2名の歩みを見ていきましょう。
秋元志保行政書士
秋元行政書士は、法律の知識がないところから行政書士試験に挑戦しました。
行政書士を目指す以前には、旅行会社での営業や添乗、テーマパークでの店舗運営、ウェディング関係の仕事など、さまざまな仕事を経験しています。
その後、結婚・出産を経て、子育てを中心とした生活へ。
これから先の働き方を考える中で行政書士という資格を知り、子育ての合間の限られた時間を使って勉強を始めました。
法律を専門的に勉強した経験はありませんでしたが、少しずつ学習を積み重ね、約8か月の勉強で行政書士試験に一度で合格しています。
仕事や家事、育児をしながら勉強している方にとって、まとまった学習時間をつくることは簡単ではありません。
それでも、限られた時間を積み重ねることで合格を目指すことができる。
その歩みは、現在勉強を続けている受験生にとって一つの励みになるのではないでしょうか。
合格後については、すぐに独立したわけではありません。
子育てを優先する時期を経て、司法書士事務所で週3~4日の時短勤務を始め、実務に触れながら行政書士として登録。その後、独立しました。

ここで注目したいのは、行政書士になる前のキャリアです。
大学時代の専門分野、旅行会社、テーマパーク、ウェディングなど、一見すると法律とは関係のない経歴にも見えます。
しかし、ここで培った「人の話を聞く力」「相手の希望を整理する力」「わかりやすく説明する力」は、現在の行政書士業務にもつながっています。
今、法律とはまったく違う仕事をしている受験生の方も、その経験は将来の行政書士業務の強みになるかもしれません。
秋元行政書士の詳しい歩みはこちらからご覧いただけます。
(ELUNA)エール行政書士法務事務所 秋元 志保
櫻場沙季行政書士
櫻場行政書士も、法律を初めて学ぶところから行政書士試験に挑戦しました。
子育てをしながら勉強時間をつくり、行政書士試験に合格しています。
仕事や家事、特に子どもが幼い時期の子育てと受験勉強を両立している方にとって、毎日十分な時間を確保できるとは限りません。
思うように勉強できない日があっても、少しずつ学習を続ける。
その積み重ねが資格取得につながったという歩みは、法律初学者や、限られた時間の中で勉強を続けている受験生にとって参考になるのではないでしょうか。
そして、櫻場行政書士のキャリアでもう一つ注目したいのが、合格後に実務経験を積んでから独立していることです。
資格取得後は行政書士法人に勤務し、相続などの実務を経験しました。
行政書士試験に合格すると、行政法や民法など試験科目の法律について一定の知識は身につきます。
しかし、試験問題を解くことと、実際に依頼者から相談を受け、必要な手続を判断し、書類を作成して仕事を完了させることは同じではありません。
勤務を通じて実際の行政書士業務を経験し、その後に自分の事務所を開くというのも、資格取得後の一つのキャリアです。
現在は、相続・遺言・終活や飲食店の開業支援などを中心に行政書士として活動する一方、法教育にも力を入れています。

その原点の一つとなっているのが、自身の中学生時代の経験です。
当時は、自分の身に起きていることをどのように捉え、誰に助けを求めればよいのかを判断するための知識を持っていませんでした。
法律を学んだことで、「法律は問題が起きた後に専門家だけが使うものではなく、自分や大切な人を守り、選択肢を知るためのものでもある」と考えるようになりました。
現在は、中学校での法教育などを通じて、子どもたちにも法律や社会のルールを身近に感じてもらう活動を続けています。
また、行政書士になる以前には映像について学んだ経験もあります。
そこで培った「相手に何を、どう伝えるか」という視点は、難しい法律や行政手続を相談者にわかりやすく説明する現在の仕事にも生かされています。
こうした歩みも、行政書士になる前の経験が、その後の専門性や活動につながっていく一例といえるでしょう。
過去の経験は、資格取得によってリセットされるものではありません。
法律知識と行政書士資格が経験に加わることで、新しい形で生きることがあります。
すでに試験に合格した方にとっても、「自分はこれまで何を経験してきたのか」「その経験を行政書士としてどう生かせるのか」を考えることが、自分なりの専門分野を見つけるヒントになるかもしれません。
櫻場行政書士の詳しい歩みはこちらからご覧いただけます。
(ELUNA)NIKA行政書士事務所 櫻場 沙季
合格はゴールであり、新しいキャリアのスタートです
行政書士試験を受験する方の経歴はさまざまです。
大学で法律を学んできた方もいれば、社会人になって初めて民法や行政法を学んだ方もいます。
会社員、経営者、公務員、子育て中の方、他の資格を持つ方など、年齢も人生経験もさまざまなはずです。
そして、その違いこそが、行政書士として歩み始める際に強みになることがあります。
行政書士の仕事には非常に多くの専門分野があります。
仕事を通じて身につけた専門知識、人との接し方、語学力など、すべて行政書士として仕事をする際の大切な財産です。
行政書士になるということは、それまでのキャリアを捨てて別の人生を始めることではありません。
これまで積み重ねてきた経験に、法律知識と行政書士資格という新しい力を加えることでもあります。
秋元行政書士と櫻場行政書士の歩みも、それぞれ異なります。
勉強の仕方も、合格後の過ごし方も、実務への入り方も専門分野さえ同じではありません。
行政書士としてのキャリアには、決まった一つの正解があるわけではないのです。
現在、行政書士試験に向けて勉強を続けている皆様には、「合格すること」だけではなく、その先で自分がどのような仕事をしたいのかも思い描いていただければと思います。
また、すでに試験に合格し、登録や開業について考えている皆様には、これまでの経験をどのように行政書士の仕事につなげられるのかを考えることが、次の一歩になるかもしれません。
今回ご紹介した支部会員2名の歩みが、行政書士として歩み始める未来を考えるきっかけになれば幸いです。
また、行政書士試験にこれから挑戦する受験生の皆様の努力が実を結びますよう、心より祈念申し上げます。